書書鹿鹿 ~かくかくしかじか~

"かくかくしかじか"と読みます。見たもの、聞いたもの、感じたことを書いてます。

落胆の大合唱

今日、部室で帰るタイミングをうかがっていた俺に、3個下の女性の後輩がこう言ってきた。

「先輩、スピードしましょうよ」

スピードとはトランプを用いたゲームの一種で、その名の通りいかに自分の手札を早くなくせるかが勝負の決着となる。(細かいルールは任天堂のホームページへ)

他の後輩から聞くに、その後輩はスピードに対して絶対の自信を持っているという。何戦か他の部員と勝負をしたが、ことごとく蹴散らしていったらしい。スピード界の羽生善治、スピード界の照ノ富士、スピード界のゴール・D・ロジャーといったところだろうか。(大幅に違う)まぁ、とにかく強いらしい。

この後輩はスピードで他の部員を全員蹴散らして、このサークルの覇権を握ろうとしているのである。

落語研究会なのに

とにもかくにも勝負を挑まれたのだが、いかんせんルールを覚えていなかった。おそらく、最後にスピードをしたのは小学校5年生くらいの頃だろう。この日本という国で生まれ育った人はみな、小学生のうちの1か月はスピードが流行る期間が存在していると言っても過言ではないと思う。1~13までの数字と4種類のマークの組み合わせしかない単純なカードの遊びだが、全国で流行っては廃れ、流行っては廃れを繰り返している。スピードも大富豪も、誰かがノーベル賞レベルの大発見をしたかのようなテンションでクラスに持ち込み、爆発的に流行る。なぜか、そのゲームの創始者でもないのに強いのが特徴である。

 

自分の場合、そのブームが小5にきた。休み時間は狂ったようにスピードをやり、目が合えば問答無用でスピードが開始されていた。ポケモントレーナーと同じやり口である。ただ、気づけばいつの間にか誰もやらなくなっている。口裏を合わせたわけでもないのに1か月、早ければ1週間で流行は過ぎてしまう。自分は当時そのブームに乗り遅れて、スピードをほとんどやっていなかった。だからあまりルールを覚えていなかったのだ。

自分がルールを思い出せず挑戦を渋っていると、別の後輩が「俺やりますよ」と言って勝負を挑んだ。とりあえずルールを思い出すために、その試合を見ることに。

赤と黒に分かれ、手札を場に4枚出す。「スピード」という掛け声を合図に中央に1枚ずつカードを出す。そのカードの前後の数字を手札から出し、手札が減れば手に持った山札から補充していく。

勝負を仕掛けてきた張本人の後輩はやはり圧倒的なスピードでカードを出していく。王者の貫禄である。一方、王者に挑んだ別の後輩はおぼつかない手元でゆっくりと出している。

「今、5が出せる!」
「K出せるよ!!」

怖いことに、このトランプゲームでは横から野次が飛んでくるのだ。急いで野次られた後輩はカードを出そうとするのだが、王者が先にカードを挟み身動きを取れなくする。

すると場内からは

「あ~~~~~~」

とため息がこぼれる。「~」×6個が正しいぐらいのため息。3,4人の「あ~~~~~~」はもう大合唱である。

そうこうしているうちに王者の手札が無くなる。さすがスピード界の池谷直樹、スピード界の武豊、スピード界のウサイン・ボルトである。(もう何が?)

 

いよいよ、自分の番である。普段あまりこの手の誘いには乗らないが、時間も余っていたので受けることにした。先の試合でルールも思い出し、なんとなくイメージトレーニングも出来ている。

いける。

手札を場に4枚出す。「スピード」という掛け声を合図に中央に1枚ずつカードを出す。

「スピード」

あれ?全然出せる手札が無い。いや、違う。出せたかもしれないが判断が完全に遅れている。

「今、出せますよ!!」

横から野次が飛んでくる。手札からカードを出そうとしたら王者がすかさずカードを挟んでくる。

「あ~~~~~~」

落胆の大合唱。

何とか挽回しようとするも、手つきがおぼつかない。

「あ~~~、あ!あ~~~~。あ~~~~」

結果は完敗。

後半は数時間かけて並べたドミノが不注意で崩壊したのをぼ~っと見守っている時の「あ~~~~~~」だった。

威厳を1つ失った。