ここ最近、ずっとわき腹を攻められている。アタッカーはバイト先の社員である平井さんだ。
現在、自分が働いているスーパーの青果では社員が3人いる。仕事の出来る店長と1年前に転職してきた高久保さん、そして平井さんである。この平井さんを含めた3人のうち2人と複数のパート・アルバイトで1日の業務を回している。
平井さんは見るからにおじさんの見た目をしており、歯がいくらか行方不明で、重度の痛風、趣味は釣りとおじさんチェックボックスにかなりチェックしている。性格も陽気な方で、いつもパートのおばさま方に冗談を言ったり、アルバイトにちょっかいをかけてくるのだ。ただ、おそらくこの道が長いのか仕事はめちゃくちゃ出来る。かなり年上だが、重たいダンボールをトラックから荷下ろしするときも余裕な顔をしているし、店長がどこかへ行っている時は、たいてい平井さんに聞けば作業を指示してくれている。仕事に対しては凄く真面目な方なのだ。この真面目さと普段のおちゃらけとのギャップが平井さんの魅力と言えば魅力なのだが、これがとても厄介だ。
平井さんとは基本的に土曜日だけシフトが被っていた。週1でしか会わないうえに、かなり年上ということもあって最初は怖かったのだが、前述したように愛嬌のあるキャラクターということもあって、働き始めて1か月経った頃には自分に対してちょっかいをかけてくるなど徐々に距離が縮まっていた。(1か月=4回ほど)
始めは背中を軽く叩く程度だった。無言で叩いてくる平井さんに対して、「ちょっと、何ですか~」とツッコミ交じりのリアクションを取る。これがお決まりのパターンだった。年の離れた学生との平井さんなりのコミュニケーションで、嫌な気もしなかったし、逆に徐々に職場に馴染めていってる感覚もあったので嬉しかった。
しかし、ある日を境にその叩く力が一段階上がった。それは長らく準社員として働いていた福井さんが辞めたタイミングだったと思う。福井さんは職場ではかなり若い方(20代半ば)の男性だったのだが仕事はめちゃくちゃできて、何よりも年上の懐に入る力がハンパなかった。基本店長を含めパートのおばさま方やアルバイト全員に対してため口を使っていた。その会話をいつもはたから聞いていてヒヤヒヤしていたのだが、誰も嫌な顔一つしていなかった。とてつもない後輩力である。「はじめの一歩」ぐらい潜り込むのが上手い。そんな福井さんを平井さんはかなり気に入っていたらしく、後に聞いたら始めの1日2日ぐらいでもう背中をバシバシ叩いてたらしい。スピードアタッカーである。
その福井さんが辞めてからというもの、上乗せされて背中を叩いてくるようになった。ちょっと前まで”パシパシ”ぐらいだったのが、急に”バシンバシン”に変わった。福井産のせいで、とんだ迷惑である。今まで通り「ちょっと、何ですか~」と言ってみるが、それではもう納得できない表情をしている。どうやらこっちも叩く力に合わせてコメントをアップグレードさせなければいけないらしい。
「いや強すぎでしょ!」
「多分、叩かれすぎて背中真っ赤になってますよ」
「闘魂注入しなくていいですよ」
ちょっとオーバーめなリアクションで返していく。さながらひな壇に座る若手芸人である。しかし、お野菜怪獣の平井さんはそれではもう満足できない身体になっていた。そして、とうとうこのブログの始めに戻る。
人類の大半が一撃食らっただけでもん絶する箇所。わき腹。
毎度毎度、平井さんとすれ違うたびに的確に突いてくる。いつものように無言ではあるが、おそらく「デュクシ」と小学生限定効果音を心の中で唱えてるに違いない。いやらしい戦法である。これまでのように背中であれば、すぐにコメント付きのリアクションで返せた。しかし、わき腹を攻められるとそうはいかない。
「オッフ...」
オタクの興奮した時の鳴き声風のリアクションしか出てこないのである。初めてわき腹を突かれた時に、
「オッフ...僕、わき苦手なんですよ~」
といったのが本当に良くなかった。弱点を見つけた平井さんは”水を得た魚”、”女性アナウンサーを横に置いたみのもんた”のように生き生きと攻撃を仕掛けてきた。
とうとう、作業場にいた自分と同世代のアルバイトの女性に「ほりい君、わき腹が弱点やねんて」と無益すぎる情報をタレコミしていた。
このわき腹攻撃のせいで、とにかく仕事に集中できない。作業場だけでなく売り場で品出ししている最中に平井さんが後ろを通るだけでもびくびくしてしまう。何でバイト先でわき腹に危機感を覚えなくちゃいけないんだ。
このバイト先で働き始めて半年が経つ。徐々に仕事にも慣れてきて、多少楽しさも感じられる。別に平井さんは嫌いじゃないし、わき腹攻撃も嫌いなわけじゃない。コミュニケーションを取ってくれてとても感謝している。しかし、バイト先でこの理不尽にさらされ続けていると、いずれ限界を迎えるだろう。平井さんにわき腹を突かれるのが嫌で辞めるか、集中力を削がれた結果クビになるかのどちらかだろう。この職場を離れるのは時間の問題かもしれない。
デュクシ