スーパーの青果でバイトをしている。基本的には品出しや検品、袋詰めが主な作業で、単純作業でありながらも売り場が広いしやることも多いから意外としんどい。
今日も今日とてバイトだった。
ここ最近は夕方まで入ることが多くなった。
雇用契約の段階では週3の午前までという契約だったので、13時のみんなが休憩時間に入るタイミングに帰っていた。しかし、ある日「この後予定あるの?」とパートのお姉さまに聞かれ、うっかり「ないですね。全然この後もシフト入ろうと思えば入れるんですけど」なんて漏らしてしまったせいで、暇人ぐーたら人間であることがバレてしまい、「暇だったら入れるよな?」と強制的に入れられてしまうことになった。
本当はそんな稼ぎたいなんて思ってなかったし、朝早くから仕事には行って、昼からはダラダラ家で過ごせるのが自分の中で気に入っていたので、正直嫌だった。
「今までも全然予定なかったんで入れたんですけど、契約が午前までだったので入れないと思ってました」
と店長に言ったら
「いいよいいよ。形式上のやつだから問題ない」
と言われた。
雇用で形式上のやつが一番問題だろ。もし有給休暇を使用しても、自分は午前までの分で計算されるらしい。
損
という経緯があって、今ではすっかりパートさんに混じって夕方まで残る常連に名を連ねてしまった。
昼以降もやる作業はなんら変わらないので、仕事に関しては困ることは無かったのだが、問題は昼休憩だった。
これまでいくつかバイトを経験してきたが、午後出勤だったので休憩をしたことがない、つまり休憩時間の過ごし方が分からなかったのだ。
小学生の頃みたく、中休みという20分程度の謎の休憩でドッジボールをしていた時間の使い方が上手い自分はもういない。スマホやゲーム機に浸食され、時間を浪費するだけの哀れな人間に成り下がってしまっていた。
休憩があった初日は「スマホを触っていれば1時間はすぐだろう」と思っていた。休憩は1時間あるので、コンビニで買ったおにぎりを食べて、スマホをいじればなんとかなるだろうと。
しかし、現実はそう甘くなかった。
もうスマホでやることがない!!
Wi-Fiもない環境でスマホを1時間触ることはなかなかに難しかった。基本的にLINE、Twitter、Instagramを確認するだけ。自分はこの動作だけで人生の大半を使ってしまっているのだと悲しくなるが、よくよく考えればたったこれだけの動作で1時間も持つはずがない。
「そう甘くはない」と言うほど大したことはしていない。
音楽やラジオを聴くという手もあったが、作業場横一列でご飯を食べているため、同僚からイヤホンを付けていると印象が悪いし、何よりお姉さま方は時たま話しかけてくる。それはありがたいのだが、本当にまれ。お姉さま同士でずっと喋っている中、急に話題を振ってくることがある。牽制球ぐらいモーションが少ないので、少しは身構えておかないとおけない。
スマホもダメ、音楽・ラジオもダメ
となったら一番いいのは読書。これである。
自分はとにかく家では本を読まない。というか読めない。
スマホやパソコン、テレビと誘惑が多すぎて本へと集中が向かないのだ。
いつもは通学中といった移動時間に本を読むようにしているが、冬休み期間で電車に乗ることもないので読むタイミングがなかった。
そこで見つけた休憩時間。
スマホを使わない、イヤホンも付けない、牽制にも対応できる。
これはうってつけだと思い、本を読むようにしたのだ。
1時間で読める量はたかが知れているので読み切るつもりは毛頭ない。なので、エッセイ集や短編小説と区切りが明確な本を読むようにしている。
今日読んだのは西加奈子『あおい』
生まれてから女性作家しか読んだことないでお馴染み(本人談)の学科の後輩に勧められて、西加奈子を読んでいる。
以前あらすじに魅かれ『ふる』を読み、オススメしてくれた後輩に話したら「なんでそれが1発目なんですか!」と言われた。
代表作が数ある中で、洋モノのAVにモザイクを入れる仕事に就く主人公の話を1発目に選ぶのはたしかにエッジが効きすぎているなと思った。
「もっと定番から攻めてください」と言われたので、段階を踏むためデビュー作を借りた。
特にあらすじも読まずに借りたので内容は全く知らなかったが、読み始めてすぐに“当たり”だと思った。
『ふる』を読んでいた時も思ったし、以前全く関係のないタイミングで『ダイオウイカは知らないでしょう』を読んでいたので分かっていたが、西加奈子の関西弁や登場人物のキャラクター性、主人公の抱えるモヤモヤがとても共感できるのだ。
結果から言うと、1時間の間で読めたのは60ページほど(おにぎりを食べながらなのでゆっくり)だったが、60ページだけでもめちゃくちゃ揺さぶられた。
ちょっとしたことで無くなる人間関係とか、女性目線で描く性とか、異常な行動なんだけどそうせずにはいられない感情とか
読みながら凄く登場人物たちに興味が湧いたし、直感的に興味が湧く自分にも興味が湧いてきた。
休憩時間が終わり、時刻は14時すぎ。
休憩前の11時からやっていた人参の詰め作業をひたすらやりながら、西加奈子『あおい』の余韻に浸り、自分について考えていた。
なんで西加奈子を読んだ前後に人参を詰めているのかを考えた。
ひたすら1kgに仕分けて袋詰め。
結局20ケースぐらいを西加奈子前後で5時間かけて仕上げた。
あれだけ余韻に浸って自分を考えていたのに、もう途中からは何も考えなくなった。
脳内はおれんじにまみれていた。