食物アレルギーを持っているとさまざまなジャンルの食事が制限されるが、その中でも一番と言っていいほど制限されるのが“お菓子”である。自分は卵・乳成分のアレルギーなので、軒並みアウトとなる。“お菓子”というホームページがあるとして、「卵・乳製品不使用」の絞り込みをかければ、グッと件数が減るだろう。洋菓子のほとんどは卵や乳製品(バターやチーズ、生クリーム)を使っているので特にダメだ。小さいころの誕生日はケーキではなくおはぎ(和菓子は比較的大丈夫)ということがよくあった。卵や乳成分に慣れさせるため、昔は少量摂取して特訓することも試したが、あまり改善されなかった。
20年以上生きてきて、食べれるお菓子に限界を感じていた折、たまたまInstagramに同じアレルギーを持つアカウントを見つけた。関西を中心とした卵・乳製品不使用の飲食店を紹介している個人的なアカウントで、わざわざアレルギー表を掲載しているホームページを探していた自分からすれば、こういう情報共有の仕方でもお店を見つけれるんだと目から鱗だった。
数ある投稿の中でひと際目に留まったのがお菓子の写真。そのお店が『マメトコナ』というお店だった。
『マメトコナ』は大阪府の富田林市にある国産小麦と米油を使った焼き菓子のお店である。販売スペースでは店頭に並んだ商品をお持ち帰りできるし、隣にある喫茶スペースでゆっくり食事することも出来る。他の卵や乳製品不使用のお菓子を販売している場所はヴィーガン向けだったりアレルギーに特化したお店だったりするのだが、『マメトコナ』は別段そういうわけではない。卵や乳製品を使っている商品もある中で、使っていない商品もあるといった感じだ。それでもマフィンやクッキー、タルトといったアレルギーでは食べにくい商品にも食べられるものがある。
正直、富田林は奈良からだとなかなかアクセスしにくいのだが、どうしても食べてみたかったので、大学の定期券があるうちに行こうと思い、サークルの後輩を誘って行くことにした。
当日、後輩は大学のテストがあったので14時に待ち合わせをした。「テストが終わった」との報告を受け外で待っているとサンダルを履いた後輩がやってきた。2月なのに。
「なんでサンダル?」
「玄関で靴下を履いてないことに気づいて、まぁいいかって」
よくないだろ。サンダルをペタペタ鳴らしながら歩く後輩と一緒に富田林駅へ向かった。
富田林駅からは徒歩3分。重要伝統的建造物群保存地区である富田林寺内町にあるため、綺麗に区画整理された古い町並みが残る住宅街に『マメトコナ』が佇んでいた。自分がオシャレな喫茶店に慣れていないのと、街全体の景観に見合わないサンダル後輩を引き連れていたので勝手に気圧されつつもお店に入った。
温かみのある販売スペースにはタルトやパウンドケーキ、クッキーといった焼き菓子もメニューが並んでいてどれも美味しそうだった。商品と値段が記載されたポップには「卵不使用」「乳製品不使用」だったり、逆に使用しているものには「○○使用しています」とアレルギーの人にも分かりやすいような表記がされてあった。分からない点や気になる点を聞いても店員さんが親切に答えてくれるので、不安になることもなかった。
値段も思っていたよりもお高くなく、後輩に「金欠なんだから気を遣えよ」という変なプレッシャーを与えずに済んだ。誘っておいて嫌な先輩だと我ながら思う。
せっかく来たからにはお店の雰囲気も味わいたかったので店内飲食の分と持ち帰りの分は分けて注文した。
自分が注文したのは「米粉と豆腐のラムチョコレートケーキ」「よもぎ茶」
後輩は「オレンジパウンドケーキ」「りんごジュース」を注文した。
全くお菓子作りをしない自分からすれば「米粉」と「豆腐」でどうやってケーキが出来るのかも分からなかったし、「ラムチョコレートケーキ」にも関わらず卵・乳製品不使用というのが信じられなかった。とりあえず、字面から美味さが伝わってきたので迷いなく注文した。
店内で食べる分を注文した後、お持ち帰りの分も購入した。
「りんごタルト」
「きな粉と甘納豆のタルト」
「柚子みそマフィン」
どれも美味しそうで迷ったが、この3種類を購入。「タルト」や「マフィン」と言ったカタカタ菓子とは無縁の人生だと思っていたので、とても嬉しかった。
商品を受け取り、隣の飲食スペースへ移動する。入った瞬間から落ち着きがやってくるような穏やかな店内。というよりかは、「落ち着き」を形にしたらこうなる、ぐらいの店内だった。水の入ったやかんが上に置かれたストーブが温かさと温かみを演出している。窓から見える庭の風景にはもう趣しかなかった。お冷ではなく白湯だったのも寒い季節にはピッタリだった。
少しして注文していた料理が届けられた。
どちらもとても美味しそうな見た目をしていた。
早速いただく。
美味しすぎる!
ケーキをほとんど食べたことがないので比較はできないが、豆腐と米粉のしっとりした食感と口の中に残るラムチョコレートの香りが新鮮な体験で美味しかった。よもぎ茶も初体験だったが、野草っぽい嫌な感じは一切なくてほんのり香るよもぎがより落ち着かせてくれる気がした。
1口食べた段階で「また来たいな」と思った。このお店が近所にあったら間違いなく通っているだろう。じわじわ店の方から自分の家に寄ってこないかなと思った。ハワイみたいに。
そう思うぐらいいい雰囲気だったし、お菓子も美味しい。サンダル後輩もとても満足そうで、だらだらと喋っていたらあっという間に閉店の時間がやってきた。
本心の「美味しかったです」をお店の人に伝えた後、頼んだ商品の名前を忘れてしまっていたので聞くと、丁寧に商品名を手書きで書いたシールを貼ってくださった。「なぜ『マメトコナ』に来たか」や『どこから来たか』など少しお話もさせてもらった。終始店員さんの接客もよく、原材料にもこだわっている分、商品にも自信と誇りを持っているからこその優しさだと思った。
「本当にありがとうございました」と言って店を出ようとした時、入り口付近に置いてあった本棚が目についた。販売しているのかどうかは忘れたが、オーナーがセレクトした本らしい。
小川糸、原田マハ、谷川俊太郎、若林正恭...
センスもいいんかい!!
本当にまた来たくなった。
この春、大学を卒業予定のため南大阪ないしは富田林周辺に行くことはなくなってしまうが、機会があれば『マメトコナ』にはまた寄りたいと思う。もっと早い時間から行って、落ち着いた雰囲気で珈琲を飲みながら本を読んで過ごしたい欲がある。
それに家には買って帰った3種類のお菓子がある。どれを食べようか迷っている時間も幸せだ。
アレルギーを持っていることでいろいろと制限された分、食べれることに対する喜びは人一番感じられる。
素敵な体験をさせてくれてありがとうございます。
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