自分は食物アレルギーを生まれてから成人になった今の今まで持ち続けている。小麦にはある程度なれ少しは手放せたが、卵・乳成分はなかなか離れてくれない。そもそも先天性のものなのでアレルギーじゃない世界を知らないし、もう20年以上も一緒にいると飽きてくる。家事も育児もろくにしない亭主を持つとはこういうことかもしれない。なんのメリットもないのだ。
友だちや家族とご飯に行くときは気を遣い、逆に気を遣われの店選び。給食も毎日のように代替のおかずを自分だけ持っていく日々。ちょっとした特別感・優越感はあるが、それよりもデメリットのほうが大きい。なぜに米の後にフルーツゼリーミックスを食べねばならんのだ。パンならまだしも。
デメリットまみれの食物アレルギーだが、ここ最近はネガティブに受け取らずポジティブに変換するようにしている。アレルギーを持たない人からすればなんてことない場所も、自分にとっては特別になる。新たな食との出会いのきっかけに食物アレルギーを利用してやろうと思ったのだ。
これまでもアレルギー表を掲載しているお店へ伺ってラーメンを食べたり焼き菓子を食べたり、はたまた程度が軽そうな揚げ物にも挑戦してみたり。みんなが当たり前のように食べているものが、自分にとってはブルーオーシャンなのだ。
そしていよいよ勇気を出して行くことにした。
ヴィーガンレストランへと。
ヴィーガンレストランは主にヴィーガンの方が利用する動物性食品を一切使わない飲食店のことを指す。自分はヴィーガンではないが、ヴィーガンの理念は自分の食物アレルギーと親和性が高い。動物性食品を使わないということは卵も乳製品も使われていないということ。ヴィーガンレストランではアレルギーを気にすることなく、普段なら絶対に食べられないであろう料理をいただくことが出来る。
ネックなのはお値段。動物性食品を使わず創意工夫のみで料理を再現しているため、必然的にコストがかかってしまう。アレルギーがなくヴィーガンでもない人が食べるよりも倍の値段を払わなくてはいけないのだ。
これまた生まれた時からケチを患っている自分からすればなかなか手が出なかった。しかし、人生で一度くらいは経験してみたい。そう思いたまたま出先にあったヴィーガンレストランへ行くことになった。
訪れたのはmumokuteki cafe&foods京都店。
前回、祇園に訪れた時もランチの候補に入れていた場所で、動物性食品を使っていないとは思えないようなメニューがたくさんあり、ずっと気になっていた。
今回、祇園には用事があって来た。夕方からだったのでわざわざ外でランチを食べなくてもいいのだが、用事の準備にも時間がかかるため早めに到着しランチをしてから準備をすることにした。以前、マメトコナに行ったサークルの後輩も一緒だったので2人で入店。
ヴィーガンレストランの客層や内装がどんなものかは全く想像がつかなかったが、実際入ってみるとオシャレなカフェのような雰囲気があり、客層は若い女性が多かったが観光地という土地柄もあってか老若男女問わず、外国人のお客さんも数人いた。外見からヴィーガンかどうかを判別できる機能は備わっていないので断定はできないが、メニューは普通の人でも特別感があって楽しめるので、ヴィーガンでない人も気軽に来ていそうだった。
後輩と自分は揃って『とろゆばオムライス』を頼んだ。
一見卵のような見た目の正体はとろとろの湯葉。ケチャップライスの上にコーンとかぼちゃで自然な甘みをプラスした湯葉と濃厚なデミソースをたっぷりかけました。
CAFE | mumokuteki - ムモクテキ
もはや「オム」とは何だろうと疑問を抱かざるを得ないが、メニュー表のビジュアルはどう見てもオムライスだったし、純粋に湯葉のオムライスに興味があった。
しばらくすると一緒に頼んだおからハンバーグと共に料理が運ばれる。
平たい皿に乗せられた『とろゆばオムライス』は完全に『とろ』で『ゆば』で『オムライス』だった。
20年以上生きてきて人生初オムライス。『テレビ千鳥』のガマン飯でもさすがにこんな長期企画は行わない。
実食。
美味い。
デミグラスソースの濃厚さとコーンとかぼちゃの甘み、そしてはっきりと分かる湯葉の食感。もちろん食べた来ない味と食感と料理に感動すらしていた。
ただ一つ疑念がある。
元を知らない自分にとって、これは『オムライス』なのか?
野暮だが『オムライス』を食べたことが無い自分が、飛び級で『とろゆばオムライス』に挑むのは手探りすぎて分からなかった。同じく『とろゆばオムライス』を頼んでいた後輩に「これってオムライスなん?」と聞いてみた。
「オムライスっちゃオムライスです」
なるほど。
食物アレルギー持ちにとって初めてのものを食べると、それがその料理の味として記憶される。自分にとっての『オムライス』の味は『とろゆばオムライス』になったのだ。大ヒット作のリメイク版を先に見てしまった感覚だろう。それはそれで良い。
『とろゆばオムライス』を食べ終わり、まだ次の予定まで時間があったのでデザートも頼むことにした。普通のレストランでよく見る自分にとっては食べられないものたちが、ヴィーガンの手にかかるとアレルギー対応になる。自分はソフトクリーム、後輩はイチゴのタルトを頼んだ。
アレルギー対応のアイスクリームなんかは市販でもよく売っているので食べたことがあったが、ソフトクリームなるものは人生で初だった。コーンではなくパフェのように器に盛りつけられたソフトクリームをスプーンを使いすくって、口に運ぶ。
美味すぎる。
そして美味すぎて腹が立ってきた。
なんで普段からソフトクリームを食べている人はもっと美味しそうに食べないのか!
慣れすぎて麻痺している。
「え、ちょ、めっちゃ美味しくないですか?」
ぐらいのリアクションを毎回とってもいい。理想形は菊地亜美のオーバー気味のリアクション。
これだけ美味しいなら言っておいてくれよ。
訳の分からないところで腹が立ってしまった。
後輩のイチゴのタルトも少し分けてもらったが、前に食べた『マメトコナ』のタルトといい意味で違ってフワフワ食感で美味しかった。
お会計が2人合わせて5000円とランチにしては少し高い値段に「ウッ」と思ってしまったし、確実に顔に出ていたはずだが、これだけ美味しいものを食べられて、ヴィーガンレストランに行くという経験ならこれぐらいの値段が妥当だと思った。
金銭的に余裕があるたちではないので行く機会は今後あるか分からないが、食物アレルギーを持っている人は一度行ってみてもいいと思う。