生まれてから20年以上奈良に住んでいると、よく聞く言葉がある。
「奈良にうまいものなし」
文豪の志賀直哉が随筆「奈良」に「食ひものはうまい物のない所だ」と記したことがきっかけで広まったらしい。他県の人から言われる、というよりも奈良県民が自虐的に言っている印象が強い。
歴史的建造物は多くあり観光名所としては優秀な県ではあるが、特筆すべき食の名産品がなく県民としても「せっかく来てもらったのに申し訳ありません」という気持ちになる。『奈良漬け』や『柿の葉寿司』と保存に特化したものもあるが、お土産としてはなかなか渋い。奈良駅内のお土産屋を見ても、せんとくんがプリントされただけの何のゆかりもない『チョコクッキー』などが販売されている。お土産として最適なオリジナル商品が出てこなかったのだ。
しかし、ここ最近になって県民が胸を張っておすすめできるようなお菓子に出会った。
それが『らほつ饅頭』である。
『らほつ饅頭』は株式会社奈良祥樂が製造・販売するかりんとう饅頭である。
奈良の名物お菓子「らほつ饅頭」
こだわりの米油で香ばしく揚げたかりんとう生地に
しっとりと上品に仕上げた餡を包みました。
とっても縁起の良い、新食感のお饅頭です。
奈良祥樂ホームページより引用
大仏の知恵の象徴と言われる螺髪(らほつ)の形をイメージした、奈良らしいお菓子。やはり、食の分野でも奈良県の大仏依存は健在だが、そういうのだから仕方がない。
先日、仕事帰りに備品を買いにホームセンターに寄った時のことである。そのホームセンターには産直市が併設されており、県内で収穫された新鮮な野菜や製造された加工品が販売されている。
普段なら寄ることはないのだが、その日は何となく寄ってみることにした。野菜だけでなく鮮魚・肉、飲料、お菓子など食に関するものは結構揃っているので、ホームセンターと併設しているため“日用品が異常に多いスーパー”と捉えることも出来る。
入り口に入ってすぐのところに、特徴的なパッケージをしたヤツと対面した。何重にも重なった円、つまり螺髪がプリントされた『らほつ饅頭』だ。ポップには大仏のイラストも描かれていて、余計に目立っていた。
仕事終わりで糖分を欲しがっていた自分は、脳の命令に背くことなく5種類を買うことにした。
ちなみに本来の目的であった備品の購入は完全に忘れていた。
さっそく、家に帰りいわゆるプレーンなかりんとう饅頭である「こしあん」を食べることにした。
ボソッ
黒糖をした皮の甘みや餡のしっとりとした重厚感のある甘みは確かに美味しいが何か違う。パッケージの裏を見てみると、「賞味期限が近づくにつれカリカリ感が減っていく」と書かれていた。なるほど、食感が足りなかったのだ。「こしあん」は食べきってしまったので、続いて「つぶあん」をトースターで2~3分しっかりと焼き上げてから食べる。
カリッ
これだ。このカリッとした黒く光った皮の食感が、より包まれている餡のしっとりとした甘みを引き立たせる。トースターを使わずに食べた時ですら十分に美味しかったのに、本領を発揮したらここまで美味しくなるのか。接戦を演じていたボスが「そろそろ本気を出しますか」と言った時並の強者感。
らほつ饅頭は全部で5種類ある。
- こしあん
- つぶあん
- まっちゃ
- くりかぼちゃ
- さくらあん
全種類食べ比べた結果、おすすめしたいのは『くりかぼちゃ』と『さくらあん』だ。
『くりかぼちゃ』は奈良県産の栗かぼちゃを使用した優しい甘みのある餡が特徴的で、小豆だけでは表現できない濃厚な甘みが堪能できる。
一方『さくらあん』は綺麗なピンク色をした餡の中に散りばめられた桜葉の塩漬けがいいアクセントになっており、塩気が上質な甘さを引き出している。
取り扱い店舗も自分の最寄りのホームセンターで販売しているくらいだから、県内あちこちで販売していると思われる。店頭販売では1つ200円程度とお買い求めやすい。ネット販売では1つ300円程度と少し値段が割高になってしまうが、それでも一見する価値はある。賞味期限は2週間と短いものの、一度で食べきれるサイズだし、何よりトースターを使えば食感が復活するので、お土産としては最適だろう。食物アレルギー持ち(卵・乳成分)の自分としても、和菓子の名物は食べやすくてありがたい。
「奈良にうまいものなし」
もう言わなくていいかも。