「春だ」と言うには少し時期が過ぎてしまっていると思う。4月も半ばに入り、相変わらず慌ただしい新生活にも慣れ、気温も夏に向けてウォーミングアップをしている。桜もあっという間に散り、かろうじて葉桜が春っぽさを留めている。
春を感じるにはこれでも十分だが、あと一つ春を感じ忘れていることがあった。
“食”である。
久しぶりに友だちに会いたくなった。
この友だちは以前ガストのカレーにも着いてきてくれた男で、めったに人を誘わない自分が唯一誘って遊びに行く友だちである。話は聞いてくれるし、変に干渉してこないし、絶妙な距離感が心地いいのと、何より歩くのが好きというのがデカいアドバンテージだ。
移動にお金をなるべくかけたくない者同士、絆は深い。
4か月ぶりぐらいに会って話したいことがあったので、「ランチをしながら話せたらいいな」なんてLINEを送った。「何か食べたいジャンルある?」と聞くと「蕎麦」と返ってきた。
「素晴らしい」
これぐらいのことで「友だちでよかった」と思える自分のコスパの良さを褒めてあげたい。
蕎麦を食べに行くことにした。
場所は奈良県の近鉄生駒駅近くのグリーンヒルいこまにある『伊駒』というお店。
2021年に出来たらしく、少し寂れた飲食街の中でも綺麗な店構えだった。Googleマップで奈良県内の蕎麦屋をいろいろ検索して、一番美味しそう+食べたことが無いメニューがあるお店を探した結果、“自家製麺蕎麦と伊勢志摩鮮魚”を売りにしている『伊駒』にたどり着いたのだ。
オープン直後の11時35分にお店に着いたが、日曜日のランチ時ということもあって既にカウンター、座敷、テーブル席が8割方埋まっていた。
友だちと店前の看板を見ながら、注文する蕎麦を熟考する。店内に入ってからメニューを見て考えればいいのだが、店前のディスプレイや大きく張り出されたポスターなどを見て決める方がワクワク感が増すので、自分はよくする。
と言いつつ、結局何にするか決めかねたまま店内に入った。
テーブル席に案内され、メニュー表を確認する。よくある冊子の形をしたメニュー表ではなく、木板の両面にメニューの文字が印刷された紙が張り付けてある、特徴的なスタイル。
友だちは定番メニューの中から『にしんそば』と『ちりめん山椒ご飯』を選んだ。自分は悩みに悩んだ結果、春の限定メニューに魅かれて『ふき味噌きんぴら肉そば』と一品メニューにあった『蕎麦の実メンチカツ』を注文した。
久しぶりに会ったのでまずは会話の種に水をやっていると、店員さんが『そば茶』を提供してくれた。これがまぁ美味しい。すするだけで風味と香りまで味わえる。これは蕎麦にも期待が出来る。
混雑していることもあって提供には時間がかかったが、注文した料理が一斉に提供された。
楕円形のような特徴的なお椀には、温かいつゆに浸かった蕎麦とお肉ときんぴら、横にはふき味噌が添えられている。視覚からでも美味しそう。
友だちが頼んでいた『にしんそば』も大きなニシンが乗っかっており、そっちも美味しそうだった。
まずはきんぴらのささがきごぼうとお肉、そばの麺を一度に挟みすする。
「あぁ~」
歯切れのいい自家製麺蕎麦と甘みのあるお肉、食感のしっかりとしたささがきごぼうの組み合わせが抜群。三位一体となって口の中に幸福を届けてくれる。そばのつゆも優しい甘みでくどくない。ズルッズルッとテンポよくすすっていく。
ベースの美味しさを堪能した後、いよいよふき味噌の出番である。ふきのとうの春らしい風味と少しの苦味のあるふき味噌を蕎麦と一緒にいただくと、鬼に金棒のようにパワーアップした姿になる。ベースのおつゆの甘みは残りつつ、ふき味噌がいいアクセントになるのだ。
それすらもきちんと堪能し、残り少なくなったタイミングで店員さんから勧められた山椒入りの七味を振りかけると、これがまた終盤にいい仕事をする。目立ちすぎずの仕事人。
あっという間に完食した。
『蕎麦の実のメンチカツ』も衣のサクサクとした食感と蕎麦の実が入ったお肉と玉ねぎの食感が美味しかった。
友だちもかなり満足した様子でお会計を済ませた後「また来たいな」と言っていた。新しいお店を開拓するのも楽しいし、他のお店では食べれないようなメニューに手を出してみるのもワクワクする。『伊駒』のもう一つの売りである“伊勢志摩鮮魚”には今回手を出せなかったので、友だちが言ったようにもう一度、いや何度も来たいと思った。
春は出会いの季節でもある。
“食”を通じて春を感じるいい機会だった。