書書鹿鹿 ~かくかくしかじか~

"かくかくしかじか"と読みます。見たもの、聞いたもの、感じたことを書いてます。

理想通りの古本屋にて本にまみれる

古本屋に初めて行った。

BOOKOFFだったり近所にあったカードゲームやCD・DVD、服、ぬいぐるみまで販売している倉庫型の古本屋には行ったことがあったが、自分としては“古本屋”の定義からは少し離れている気がする。自分の定義する“古本屋”は「本で溢れかえっている場所」。これである。
その”古本屋”に初めて行ったのだ。

 

 

そこに古本屋があることに気づいたのはつい最近だった。家から少し離れた駅近くにずっとあったのだが、商店街から少し外れた場所にポツンとあったので今の今まで気が付かなかった。たまたまバイトでその周辺を通ることがあり、古本屋の存在に気が付いたのだ。親にその古本屋について尋ねると、どうやら親が子どもの頃は最寄り駅のそばに店を構えていたらしく、何十年も前に移転したらしい。歴史のある古本屋にとてもそそられた。

 

そもそも古本屋に興味を持ったのは『午前0時の森』がきっかけだった。オードリー若林正恭と水卜アナが担当する火曜日の放送では、毎週2人が気になっていることや雑談から派生した企画をやることが多い。その中で古本屋の特集が組まれていた。1回目は都内の古本屋の店主を招きお店の紹介や店主おすすめの本を紹介する企画。2回目は読書家でも知られるピース又吉直樹を招いて自身が収集した古本を紹介する企画。どちらも古書ならではの面白さや楽しみ方を紹介しており、興味が湧いた。自分自身「遅読」(速読の逆)で読むのが遅く、読み始めるのもなかなか勢いをつけないといけないタイプなので本自体をたくさん読むわけではないが、書店や図書館でしか味わえない「本に囲まれる」はとても好きだ。そして古本屋は本棚に全く収まっていない文字通りの「本に囲まれる」が出来る場所のようだった。

先日、ブログに書いた健康診断はその古本屋の近くが会場だったため、健康診断から家に帰る途中に寄ってみることにしたのだ。

 

 

駅から徒歩3分ほどの雑居ビルの1階に構えた古本屋。軒先にはワゴンが何台か置かれており、手書きの【100円セール】のポップが上に飾られている。名作と言われる小説やニッチなジャンルの文庫、タイトルのフォントから時代を感じさせる漫画などが無造作に並んでいるワゴンを見て「(求めていたのは)これこれ!」とテンションが上がってしまった。

店内に入る。広さは「子ども時代の自分の部屋がこれぐらいあったら充分」のサイズ感。それなりに小さい店内にはありとあらゆる本がジャンルごとに並べられているだけでなく、本棚の前にはおそらく誰かが処分・売却のために持ってきたであろうビニール紐に括られた本の束が無造作に置かれていた。二度目の「これこれ!」が発動した。

奥のレジには店長さん1人が座っているのだが、その周りも本で囲まれているため顔が見えない。もはやまみれていて、オートでプライバシー保護がなされている。店長さんは店に入って来た自分には「いらっしゃいませ」も特に言わず、黙々と本を読んでおそらく値段を決めているようだった。皆さんご一緒に。

 

「これこれ!!」

 

この本に囲まれた空間、時間がゆっくりと進む落ち着き、店主の雰囲気

自分の理想としていた“古本屋”がそこにはあった。

 

 

店内を物色していく。

「女性作家」

「文庫本」

「外国文学」

「趣味」

「漫画」

「絵本」

コーナーとしてのラインナップは一般的な書店とは変わらないが、並んでいる本からは時間を感じさせる色や傷みがあって不思議な気持ちになった。絶対に新刊では買えないような古い分厚い本や画集、かなり昔の洋画のパンフレット、自費出版で出したであろう詩集など。本棚を眺めているだけでも面白かった。

タイトルから気になった本はいくつか手に取ってパラパラと読んでみた。

1970年代にどこかの新聞に掲載されていた、風刺の効いたイラストと解説がまとめられた本。当時のユーモアが織り交ぜられていて、何でも虚々実々が混ざっているという。ユーモアは分からないしいい加減だが、当時のことを知れる面白い本だと思った。

あと今でも発売されている雑誌『ユリイカ』のかなり古いもの。(装丁もホッチキスで留めてあるようなやつ)。試しにその中の「喩え」に関するコラムを読んでみたが、難しすぎてなかなか理解するのに時間がかかってしまった。

 

しばらく本をじっと眺めていると、後ろから急に女性の声で「すいません」と聞こえてびっくりした。

「トイレットに行ってくるので、しばらくレジ対応できません」

勝手な先入観と本によるプライバシー保護のせいで、店主を勝手に男性だと思っていたが、妙齢の女性であった。「トイレ」のことを「トイレット」呼びするのは初めて聞いた。

 

 

店主がトイレットから帰って来たタイミングで、本を購入することにした。結局、購入したのは文庫のドストエフスキー『地下室の手記』。ネットショッピングやブックオフとかでも買えそうではあるが、この雰囲気の古本屋で買うのは乙な気がしたので。

そこで売られている古書には全て背表紙の裏側に鉛筆で数字が書かれており、それが値付けされた値段になっている。『地下室の手記』は「220」と書かれていたので、財布を取り出し小銭入れのチャックを開ける。店主が背表紙の裏を開き睨みつけている。

「これいくらって書いてる?」

自分で書いたのに薄すぎて読めなかったらしい。「220円です」と伝え小銭を置き、どう考えても「めんどくさくなってそのまま渡しただろ」といった片側だけ折り込んだ中途半端にブックカバーをつけられた状態の文庫を渡してくれた。

 

買った本や手に取った本以外にも興味のそそられる本がまだまだたくさんあったのでまた行きたいと思ったし、個人的には普通の書店に行くより読書欲が高まった気がする。それに、近所にはそこしかないが別の地域にある古本屋にも機会があれば行ってみたいと思う。そして「これこれ!」と言いたい。

 

 

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