書書鹿鹿 ~かくかくしかじか~

"かくかくしかじか"と読みます。見たもの、聞いたもの、感じたことを書いてます。

飯島奈美『ご飯の島の美味しい話』に”食”の持つ力を見る【読書感想文】

ご飯の島の美味しい話 (幻冬舎文庫)

飯島奈美『ご飯の島の美味しい話』

 

 

ここ最近、“食”をテーマにしたエッセイを好んで読むようにしている。自分自身が“食”に興味を持ち始めたのもあるが、単純に活字で誰かの食を読むだけで美味しい気持ちになる。自ら食欲を掻き立てる、セルフ飯テロだ。

飯島奈美『ご飯の島の美味しい話』はタイトルを見てすぐに手に取った。「ご飯の美味しい話が書いてある」とすぐに分かったからだ。

『ご飯の島の美味しい話』はフードコーディネーター・フードスタイリストとして『かもめ食堂』『深夜食堂』『大豆田とわ子と三人の元夫』といった数々の映画・ドラマ・CMで活躍する飯島奈美の初のエッセイ集。

これまで担当した作品を見てみると、何作も観たことがあるものを担当しており、裏話もあるとのことで俄然読む気になった。

 

 

“食”をテーマにしたエッセイは、ジャンルは一つであるが書き手によってきちんと個性が現れる。食を通じて人間関係を描く人、細かい描写で味を想像させる人...。今回は「食の裏側を見せる人」であった。単純に美味しいを求めるのではなく、工夫を凝らした上で美味しいを求めなければいけないフードスタイリストならではの苦労話の視点が初めてで面白かった。土地や食材、撮影方法や監督の要望といった限られた条件下の中で美味しさを表現する仕事の難しさと楽しさが優しい文体で書かれていて、当時の忙しさも伝わってくれば、「美味しい」に包まれた和やかな雰囲気も伝わってくる。

もちろん裏話だけでなく、仕事柄さまざまな食材・料理に触れる出会いのエッセイも多い。揚げバナナ、ミャンマーサラダ、サボテン茶。なかなか聞き馴染みのない異国の料理も気になった。

またこのエッセイ集は各エッセイの最後に、その文中で紹介した料理のレシピを載せている。エッセイの中でも食欲をそそるのに、再現可能なレシピまで添えられたら飯テロ確信犯。

 

 

本の中でさまざまな料理や食材が紹介されていたが、一番気になったのは「梅酢」。

目次で言えば「和歌山の駅弁と宿ご飯」「梅酢」の2回登場しており、飯島さんは好きすぎるがあまり商品開発までたどり着いてしまっている。(「紀州の、うめ酢」)解毒作用、疲労回復、食欲増進などさまざまな効果がある梅酢の使い方を広めるレシピ「難逃れレシピ」も考案。

文中で紹介されている、「梅酢のから揚げ」が特に想像を掻き立てた。酸味があるのか、さっぱりしているのか、肉の柔らかさはどうなるのか。

1つの調味料から話を広げれるのは知見の広いフードスタイリストのなせる業だろう。「梅酢」をどこかで見かけたら真っ先に買おうと思った。

 

 

「韓国の美味しい話」の中にこんな話があった。韓国にイベントで行った際、観客から「どうしたら癒す料理を作れるんですか?」「料理で癒すってどういうことだと思いますか?」と聞かれ飯島さんはこう答えたという。

 

忙しく働いていたりすると、食事が疎かになりがちだけど、そういうときに、料理がおいしそうな映画を観て癒されたり、こういうものを食べたいな、と、ちゃんとご飯を食べるきっかけになったりして、そこから癒されていくのかもしれないし、そうであってほしい

飯島奈美『ご飯の島の美味しい話』より引用

 

この言葉を読んで「これこそが“食”の持つ力だよな」と真正面から受け取ることが出来た。何でもない日常を鮮やかにする一番簡単な方法は「美味しいものを食べる」だと思う。食べることでストレス解消にもなるし、食材を買いに行く、どこかへ食べに行く、自分で作ってみるなど、もっと手順を踏めば達成感も味わえる。

たしかにこの本では「○○という飲食店が特別美味しかった」や「張り切ってお洒落な料理作ってみました」というエッセイは一つも見られない。
海外の家庭料理や全国各地の地のもの・名産品、家庭料理に少しの手間を加えるといった「誰かにとっての近しい料理」しか紹介されていない。その時点で、この飯島さんのアンサーはとっても説得力を帯びている。

自分が“食”に重きを置き始めたのは「癒されたかった」のだと飯島さんの言葉で気づかされた。

“食”に対する姿勢が自然と前のめりになる、そんな押しつけがましくない寄り添った本だった。

 

 

【基本情報】

『ご飯の島の美味しい話』

作者:飯島奈美

出版社:幻冬舎

フードスタイリストとして、数々の映画、ドラマ、CMで活躍する飯島奈美さん。映画「かもめ食堂」でその仕事を知られるようになってから、現在まで、様々な現場でどのような思いで料理を作り続けてきたか。その時々の料理の裏話とともに、日々の出来事を綴った、ユーモアと温かさと誠実さに満ちた、初めてのエッセイ集。

揚げバナナ、タイ風鶏鍋、ミャンマーサラダ、深夜食堂の豚汁、トマトカルボナーラ、しらすとチーズのトースト、豚肉のポッサム、梅酢から上げ、白菜の漬物鍋、ネギとお揚げのとろみうどん、豆腐のあんかけご飯 ほか、今すぐ作りたくなるオリジナルレシピ、51品付き。
ご飯の島の美味しい話 | 株式会社 幻冬舎 (gentosha.co.jp)より引用