書書鹿鹿 ~かくかくしかじか~

"かくかくしかじか"と読みます。見たもの、聞いたもの、感じたことを書いてます。

水木しげるロードのお土産「妖菓 目玉おやじ」との睨み合い

旅行の醍醐味と言えば『お土産』である。その土地でしか買えない名産品や旅行の記憶を思い出せるようなご当地のものを買う。買う相手も自分・家族・恋人・職場...とさまざまで、それでいて相手のことを想い買う商品を選ぶことは旅行に行った価値をワンランク上にしてくれる。お土産で貰ったお菓子はすぐに食べるし、キーホルダーや置物は大事に使っている。お土産は億劫な部分もあるが、買う方も貰う方もとても満たされる。どんなものを貰っても「自分のことを考えて買ってくれたのだ」と嬉しくなる。

 

 

先日、両親が突如「旅行に行く」と言い出した。たまたま仕事の都合でここ最近父の仕事がぽっかりと空いているので、せっかくならと夫婦水入らずで旅行に出かけることにしたのだ。元々の目的地は石川県で旅館やご飯屋も予約していたのだが、先の地震でキャンセルをせざるを得なくなった。日程は決まっていたため、別の候補地として挙がったのが島根県だった。

「島根県」と聞いて思いつくものが“出雲大社”しかないので2泊3日の旅行先にしてはミスマッチじゃないかとも思った。島根県への偏見は、昔から『鷹の爪団』を観ていた弊害でもある。

とにもかくにも、両親は島根県へと旅行に行った。

 

2日後の夜、両親は帰って来た。

自分は島根県に対して懐疑的な目線しか持っていなかったが、両親はとても満喫したようだった。旅行シーズンでもない平日の2泊3日ということもあって、旅館は貸し切り状態だったようで、ご飯も温泉もサービスも充実していたらしい。

自分も家が貸し切り状態で「牛すじ煮込み」や「銀皮(砂肝の硬い部分)の唐揚げ」といったチャレンジングな料理も出来たし、家に友人を呼んで料理を振舞うことも出来たし、いつも親に独占されていたソファに座り、大画面のテレビでヨーロッパ企画の舞台を観ることが出来た

家事や仕事から解放されて随分とリフレッシュしていて、自分もリフレッシュ出来たのでいい旅行だったんだなと思えた。

 

 

もちろん自分が参加していない旅行のお目当ての物は一つしかない。

「お土産」である。

島根県のお土産は何一つ想像できなかったが、何かは買ってきてくれるだろうと思っていた。その予想通り何個か買ってきてくれていた。

1つ目は「はじき豆」

塩水に漬け込んだそら豆を炒ったもので、節分でもない時期に煎り大豆をバリボリ食べている自分にとってはピッタリの商品だった。

2つ目は「トビウオの燻製」

こちらも焼小あじやするめといった魚介系のおつまみが大好きな自分にドンピシャのお土産。

本当に家族はよく見てくれているなと思うし、自分のことを考えてくれているなということが伝わってきて嬉しい気持ちになった。どちらとも島根県産でもなければ島根県製造でもないことは余裕で目をつぶれる。結構グッとつぶったけど。

そして3つ目。

「妖菓 目玉おやじ」

これが問題だった。

 

 

親から話を聞くと、最終日はどうやら島根県と鳥取県の県境にある「水木しげるロード」に行ったらしい。『ゲゲゲの鬼太郎』で知られる水木しげるの出身地である鳥取県境港市にある通りで、妖怪の要素を盛り込んだ観光名所である。

自分もその存在は知っていた。なぜなら、昔中学の同級生が旅行に行った際、お土産を買ってきてくれたからである。その時はさまざまな妖怪の形をした消しゴムの詰め合わせをくれた。使う機会が無かったので今でも大事に持っている。

その場所で親は「妖菓 目玉おやじ」を買ってきた。

 


お土産図鑑 妖菓目玉おやじ【妖怪食品研究所】 | おみナビ (ominavi.com)より引用

「妖菓(ようか) 目玉おやじ」はリアルな目玉の形をした生菓子である。妖怪食品研究所だけで限定販売されており、通信販売は行っていない。

2個入りということもあって両目がきちんと揃っているようにパッケージされており、ヴィジュアルからなかなかのインパクトがある。

「これかぁ...」と思った。

とにかく気持ちの面で食べにくい。そもそも『ゲゲゲの鬼太郎』自体少し苦手意識があるほど、グロテスクなものに対して抵抗がある。それを「食べろ」となると勇気が必要だ。

どうやらお店では食べ歩き用に串にさして販売しているものもあるらしい。自分には目玉にかぶりつくなんて到底無理だ。

食物アレルギーを持つ息子のことを考えてねりきりの和菓子を選んでくれたのはありがたいが、「食べられるもの」を意識しすぎて「食べやすい」がおろそかになっている。

 

 

そんなことを考えて躊躇っていると、横から母親が「一つ貰うわ」と言って片目を食べてしまった。鬼太郎同様に隻眼になってしまったのだ。

「美味しい」と言ってはいるが、果たして自分は「美味しい」を100%で受け止められるだろうか?

「ちなみにこれ、1つ500円する高級なやつやから」

親父が横やりを入れてきた。余計に食べづらい情報を吹き込んでくるな。

これを食べるのは、人体を傷つけるという意味で注射ぐらい嫌な気持ちだったが、せっかく買ってくれたので食べることにした。

 

 

母親はえぐり取るように手づかみで食べていたが、気が引けたのでフォークで食べることにした。

寒天でコーティングされた赤と黒の部分を避けながら、白目の部分だけを切り取って口に運ぶ。

「いや、めちゃくちゃ美味しいけど」

本当に美味しかった。ねりきりと中に包まれたこしあんの甘さも上品で、甘ったるさはなく食べやすかった。「けど」って感じ。ずっと見られている。

「妖菓目玉おやじをのぞく時、妖菓目玉おやじもまたこちらをのぞいているのだ」

ニーチェもこれを食べたらそう言っていたに違いない。

大部分の美味しいと少しの気持ち悪さに挟まれながら食べ進めていると、途中寒天である赤と黒が落ちてしまった。美味しいものを食べて落とすものは「ほっぺた」しか知らなかったが、ランキングの下の方に「虹彩」と「瞳孔」があったらしい。

白だけの本館も赤と黒だけの別館も嫌だったので、まとめて食べた。本館の甘さに加えて寒天の弾力のある食感が合わさってより美味しかった。

ほっぺたも落ちた。

100%美味しかったんかい。