書書鹿鹿 ~かくかくしかじか~

"かくかくしかじか"と読みます。見たもの、聞いたもの、感じたことを書いてます。

vs 本当に働きたくない男/星野源「働く男」【読書感想文】

「働きたくない」

言うまでもない。自分の口ぐせである。

将来を意識し始める高校生の頃から繰り返し繰り返し脳内に現れ、時には口から音として発せられることもある。決して相手を油断させるポーズ、口だけではない。高校生の頃、初めてバイトをした焼き鳥屋も週3・3時間と最低限だったし、大学に入る前に始めた派遣バイトも半年で飛んだ。大学2、3年生の一番お金を使って遊びたい時期には一切バイトをせず、渋4年生になって渋々始めたスーパーの青果バイトは土日の午前中6時間を徹底し、それ以上シフトに入れられそうになったので辞めた。フリーターとなった今でも、社会保険料や家に入れるお金を捻出できる程度で働いている。どうだ、有言実行だろう。

書いていて虚しくなってきた。

「働きたくない」と言いつつも、決して「何もしたくない」と言っているわけではないことを分かってほしい。税金は納めるし健康保険も年金も払う(払いたくない気持ちを押し殺して)。もちろんきちんと就職をして社会人を全うしている同級生の方が、自分の中での偉さランクでははるかに上位である。

 

 

「好きなことをして稼ぎたい」

ポジティブに言い換えるとそういうことだ。「サラリーマンは向いてなさそう」との激甘自己分析が出たので、その路線で日々生活をしている。と言いつつ、その道はかなり険しく毎日毎日難航している。自分の中の好きを見失ったり、新たな好きが発生したり、そもそも好きなことをしていてもお金にならなかったり。出港は高校生の時からしているはずなんだけど、気づけばまた港に戻って進む気配がない。

 

 

「働きたくない。」

世界中のニートがこすり倒し、自分も擦り倒している宣言と同じ書き出しで始まるこの本は、音楽家・俳優・役者・文筆家などさまざまな肩書を持ち“働き者”で知られる星野源の著書『働く男』(文庫版)である。

働く男 (文春文庫)

くも膜下出血で活動休止する2012年までの自身の働きを3つの分野で振り返る本では、星野源という男の性格や人間性が垣間見える。

雑誌『ポパイ』で連載していた映画コラム「ひざの上の映画館」、熟年夫婦の特別な日常を描いたショートショート「急須」、謎の痛みに纏わるコラム「モニカ病」がまとめられた『書く男』。

星野源のソロやSAKEROCKといった自身の音楽作品を当時のエピソードや楽曲のこだわりを交えながら解説をする振り返り企画と歌詞に手書きのコード進行と演出が書かれた歌ってみて企画の2本立て『歌う男』。

自身が出演した舞台・ドラマ・映画を年表にまとめ一言メモと共に振り返る『演じる男』。

その他、自己紹介を兼ねた『働く男』、園子温、ハマ・オカモトの証言やピース・又吉直樹との対談(文庫版)で掘り下げる『そして、また働く男』。

 

 

5つの構成で自身の華々しい経歴を振り返るこの本は、一見“多彩な男の自慢”にも思えてしまうかもしれない。しかし、読めば分かる。楽をしている様子は微塵も窺えない。1つ1つの仕事に対して真摯に向き合い苦闘しながら日々成長を求めて足掻いている泥臭い男がそこにいるだけだった。

「星野くんに文章の才能はないと思うよ」

といろんな人に言われましたが、そんなの関係ねえと奮い立ち、誰にも見せないエッセイや、小説を書きまくりました。
星野源『働く男』より引用

天性の非凡な才能に甘えて文章の仕事をしているのではなく、好きだから文章を書き続けて自分で営業をかけて仕事を貰う。初のエッセイ集『生活はつづく』や「ひざの上の映画館」はそれの積み重ねなのだ。

 

 

『働く男』を読んではっとさせられた。

根底に「働きたくない」や「好きなことをして稼ぎたい」よりもグレードの低い、「楽して稼ぎたい」の考えがあるから、全く日々成長しないんだと。

星野源が言う「働きたくない」は「働きたい。でもなるべくサボってたい」という意味なのだ。真に受けてはいけない。たった3時間のバイトで重労働をした気になって、帰りのコンビニでご褒美のポテチとアイスを買い、帰ってからは疲労を言い訳にしてスマホに夢中になっている現段階の自分では到底達成できない道のりなのだ。

 

「楽して稼ぎたい」が一番険しい道。昔、「不労所得で楽して稼いでやるぜ!ハッハー!」などと息巻いて商業的なブログを始めた自分に言ってやりたい。

 

「そんな甘くはないよ」と。

読者も増えなければ、広告のクリック数も伸びなくて、何なら年間のサイトのサーバー代で2万ぐらい損をするんだよと。

芸能人やアーティストが「好きなことをして楽して稼いでいる」ように見えるのは、血のにじむような日々の努力を重ねたからなんだよと。

 

 

こうやって読書感想文っぽいエッセイ風のブログを書いているのは、星野源『働く男』に収録されている「ひざの上の映画館」の書き方を参考にして書いている。「才能がない」と言われ続けた男が書いた文章でも、努力や成長を重ねれば影響力を持つことだってあるのだ。

自分には文章の才が無いことだって分かってる。それでも、定期的に誰にも求められていないのに文章を書いてしまうのは、自分の中にも少なからず好きが残っているのではないだろうか。

この本を読んでようやく、自分の好きを見失わず、楽をしないで稼ぐ道に足を踏み入れた気がする。

 

 

【基本情報】

『働く男』

作者:星野源

出版社:文藝春秋

働きすぎのあなたへ。働かなさすぎのあなたへ。
働きすぎのあなたへ。働かなさすぎのあなたへ。

音楽家、俳優、文筆家とさまざまな顔を持つ星野源が、過剰に働いていた時期の自らの仕事を解説した一冊。映画連載エッセイ、自作曲解説、手書きコード付き歌詞、出演作の裏側ほか、「ものづくり=仕事」への想いをぶちまける。

文庫化にあたり、「働く」ことについて現在の気持ちをつづった書き下ろしのまえがき、芥川賞作家となったピース・又吉直樹との「働く男」同士対談を特別収録。
文春文庫『働く男』星野源 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS (bunshun.jp)より引用